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カテゴリ: 根管治療

根管治療が痛い!なかなか終わらないのはなぜ?~根管治療に対する患者さんの誤解~

根管治療をされている方で、根管治療が痛い、治療がなかなか終わらないと訴える方は非常に多いです。

根管治療が痛いのは、根管治療の際に麻酔をしっかりしないことが挙げられます。

多くの歯科医師は、2回目以降の根管治療の際に麻酔をしません。

仮に、一回目の根管治療で歯髄(歯の神経)を完全に取り除けていたとしても、細い根管の中に器具を挿入するだけで歯根外に圧力が加わります。

また、根管治療時に生じた削りカスによる目詰まりを防止するため、ファイルと呼ばれる治療器具が歯根外に意図的に少し出します。

歯根外は、歯根膜や歯槽骨といった歯以外の組織で、それらの組織の中には神経が通っているため、歯根外に圧力やファイルの刺激が加わることで痛みを生じるのです。

したがって、根管治療における痛みのコントロールを行うためには必ず麻酔が必要です。

しかしながら、保険診療では仮に麻酔をしても保険算定ができず(つまり無料)、麻酔を行う時間もかかるため、麻酔をせずに根管治療を行うことが一般的になっています。

ここで注意しなければいけないのは、繰り返し根管治療で痛み刺激を与えると、痛みに対する閾値が下がるのか、痛みが引きにくくなります。

 

また、根管治療を半年とか1年とか長期で受けている方がしばしばいます。

根管治療は、やればやるほど歯周組織を刺激し、歯は削られて薄くなって強度が無くなり、細菌感染のリスクが高まります。

基本的に、根管治療は短期決戦であるべきで、その方が予後が良いです。

真面目な患者さんほど、きっとこう思うはずです。「痛いからきちんと通い続けないと・・・」

それは実は大きな誤解であり、見切りをつけてセカンドオピニオンを受けるべきでしょう。

 

 

初診時レントゲン。他院で1年以上かけて根管治療を行っているが痛みや歯茎の腫れが引かずに来院。元々は歯髄が生きていた生活歯の抜髄を行ったケース(イニシャルトリート)。同時に3本もの歯を抜髄して長期に根管治療を行う診断に問題があると言わざるを得ない。患者さんは心身ともに疲弊し、歯科治療への不信が高まってしまうのも無理はない。まずは、現状の説明と解決策を提示し、歯科治療への不安を取り除くところから治療が始める。

 

根管充填後レントゲン。歯の痛みや歯茎の腫れが改善したため、バイオセラミックシーラーおよびガッタパーチャにて根管充填を行った。根管治療は2回、2週間で終了。

 

治療後レントゲン。適切な補綴(被せ物)により治療を終了。的確な診断および治療を行うことで、長年の悩みから解放された。我々は、無暗に患者さんの大切な人生の時間を奪ってはいけない。

 

根管治療はきちんと出来ていて画像診断でも問題が無いにもかかわらず、長期に痛みを訴える方が時々います。

このような場合には、非歯原性歯痛や三叉神経痛を疑う必要があり、薬物治療の対象になる可能性を視野に入れ、適切な医療機関への紹介が妥当です。

もし仮に正しくきちんと根管治療を行っても予後が悪いようであれば、それはもう根管治療の適応ではなく、外科的歯内療法(歯根端切除)や意図的再植、或いは抜歯の適応なのです。

治療費:精密根管治療/¥77,000/前歯、¥88,000/小臼歯

治療期間:2週間

治療上のリスク:根管治療の成功率は100%ではありません。

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歯性上顎洞炎の治療~まずは根管治療の専門医へ~

歯性上顎洞炎は、上顎臼歯(奥歯)に慢性の炎症が原因で生じる副鼻腔炎です。

原因として多いのは

①慢性根尖性歯周炎(根尖病巣)

②歯根破折

③慢性辺縁性歯周炎(歯周病)

の3つです。

これらの問題が無く、歯根の周りに炎症による骨吸収を認めない場合、それは鼻性の上顎洞炎ということになります。

耳鼻科では、片側性の上顎洞炎があると、歯性上顎洞炎という診断を受けることがありますが、それは正しくありません。

鼻性の上顎洞炎であっても、片側性に生じるものがあるのです。

耳鼻科で行うCT撮影は範囲が広いため、歯と上顎洞炎との関連性を見極めるのは不十分で、正確に診断を行うためには歯科でのCT撮影が必須です。

 

右側上顎第一大臼歯の初診時レントゲン。他院にて根管治療を行っているが良くならず、歯がひびく、黄色い鼻水が続いているとのこと。耳鼻科にて歯性上顎洞炎の診断を受ける。

 

初診時CT画像。上顎洞に当該歯の部位に一致するX線不透過性の亢進を認める。繰り返し根管治療を行ったためか、根尖部は破壊されて太く開いている。また、湾曲した根管を何度も治療を行ったため、根尖部のパーフォレーションを認めた。

 

根管充填後レントゲン。症状が軽快したのでバイオセラミックシーラーとガッタパーチャにて根管充填を行った。根尖までしっかりと薬が入っているのが分かる。

 

同CT画像。上顎洞のX線不透過部は消失し、上顎洞炎が治癒しているのが分かる。

 

治療後レントゲン。初診時の症状は完全に消失し治癒した。被せ物の適合は根管治療の予後に影響するので、しっかりとフィットする被せ物を装着することが重要。

 

上顎大臼歯部の根尖病巣は、歯性上顎洞炎を生じる危険が極めて高いです。

かなりトレーニングされた歯科医師でなければ、上顎大臼歯の根管治療を完全に行うことは難しいでしょう。

特に再根管治療は難易度が高いため、はじめから自費での精密根管治療をお受けになることをお勧めします。

治療費:精密根管治療/¥99,000/大臼歯

ファイバーコア/¥22,000

オールセラミッククラウン/¥132,000

(治療当時)

治療期間:3カ月

治療上のリスク:根管治療の成功率は100%ではありません。耳鼻科との連携診療が必要な場合があります。

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歯髄壊死による難治性の根尖病変を、根管治療と外科的歯内療法で完治させた症例

虫歯や外傷で歯の歯髄(神経)が自然死してしまう歯髄壊死。

病巣が生じて初期のものは、そのほとんどが適切な根管治療を行うことで根尖病巣は治癒します。

しかしながら、根尖病巣を生じてから長期に放置して未治療の場合、難治性の歯根肉芽腫や歯根嚢胞となり、根管治療だけでは治りにくくなることが少なくありません。

このような場合には、外科的に根尖病巣を取り除く必要が出てきます。

 

初診時レントゲン。上顎前歯の歯茎の腫れを主訴に来院。歯冠部に白い大きなレジン充填の跡が見られ、根尖部に黒いX線透過像を認める。

 

初診時CT画像。根尖部に境界明瞭な直径1㎝ほどの黒いX線透過像を認める。虫歯治療後の歯髄壊死および根尖性歯周炎と診断し、感染根管治療を行うこととした。

 

数回の根管治療を行ったにもかかわらず、根尖部の圧痛は消失したものの排膿が止まらず、難治性の根尖病変と判断し根尖病変を外科的に切除した上で根管充填を行った。(歯根端切除は行っていない)

 

根管充填後6か月のレントゲン。根尖部の黒いX線透過像は完全に消失している。

 

同CT画像。根尖部のX線透過像は完全に消失し、骨が再生し完治している。難治性の根尖病巣であっても、必ずしも歯根端切除が必要ではないことが分かる。

 

難治性の根尖病変でも、適切に外科的歯内療法を行えば高い確率で治癒することが分かっています。

外科的歯内療法を成功せサるためには、きちんと根管治療が行われていること、そして適合の良い補綴物や充填物を装着することが前提となります。

根管治療を何回も行っても治らない場合は、見切りをつけて外科的歯内療法に移行する必要があるでしょう。

治療費:精密根管治療¥110,000/前歯

嚢胞摘出¥22,000

コンポジット充填¥11,000

治療期間:6か月

治療上のリスク:根管治療および外科的歯内療法の成功率は100%ではありません。

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外科的歯内療法による根尖病巣(根尖性歯周炎)の治し方

レントゲン上で根尖部(歯根の先端)の骨が溶けているものを総じて根尖病巣(根尖性歯周炎)と呼んでいます。

この根尖病巣は、歯の内部の細菌感染や腐敗物質が原因です。

根尖病巣(根尖性歯周炎)のある歯の治療の第一選択は、再根管治療です。

以前の根管治療がきちんとされているにもかかわらず根尖病巣が出来ている場合、きちんと治療されていない場合よりも治りにくい傾向があります。

したがって、再根管治療を行う場合、すでにしてある根管治療(根管充填)の状態の良否は、治療計画を立てる際に非常に重要な診断要素となります。

また、再根管治療を行っても治る見込みが少ない場合、或いは再根管治療を行うことで歯根破折やパーフォレーション(穿孔)を生じるリスクが大きい場合には、外科的歯内療法を選択します。

すでに歯根に入っているポストコア(土台)の長さや太さは、再根管治療を行うか外科的歯内療法を行うかのひとつの判断材料になります。ポストコアを外すのは、非常に危険でリスクの高い治療だからです。

 

初診時レントゲン。上顎左右中切歯の根尖には、根尖病巣と思われる黒い骨吸収像を認める(黄⇒)。右側(向かって左)中切歯にはサイナストラクト(フィステル)が存在し、他院にて再根管治療中であった。ファイバーコアを外したであろう跡はオーバーカットされており、歯質が極めて薄くなっている(赤⇒)。歯根破折やパーフォレーションのリスクが高い。

初診時CT画像。両側中切歯の根尖部に根尖病巣を認める(黄⇒)。左側(向かって右)中切歯の根管充填は根尖までしっかりと行われている。右側(向かって左)中切歯は根管治療途中であるため、まず右側中切歯の再根管治療を行うこととした。

 

右側(向かって左)中切歯の根管充填後レントゲン。数回根管拡大・洗浄を行ったにもかかわらず、サイナストラクト(フィステル)が消退しなかったため、根管充填を行い外科的歯内療法に移行することとした。左側(向かって右)中切歯は根管充填が良好なため、再根管治療は行わずに外科的歯内療法を行うこととした。

 

 

根尖掻爬術3か月後レントゲンおよびCT。まず、歯根端切除は行わず、根尖掻爬(病巣摘出)のみを行った。左側(向かって右)中切歯の根尖部の黒い透過像は縮小しほぼ治癒している(赤⇒)。右側(向かって左)中切歯の根尖部透過像は改善が見られない。

 

根尖掻爬術6か月後CT。左側(向かって右)中切歯根尖部の透過像は消失し、根尖病巣は完全に治癒している(赤⇒)。右側(向かって左)中切歯の根尖部透過像はやや拡大し、病巣がやや大きくなっていることが窺える(黄⇒)。右側中切歯のみ歯根端切除・逆根管充填を伴った外科的歯内療法を再度行うこととした。

 

歯根端切除・逆根管充填3か月後。右側(向かって左)中切歯の根尖を3㎜切除し、MTAセメントにて逆根管充填を行た。根尖部の黒い透過像はまだ存在し、骨の再生は不十分。さらに経過観察を続けていく。

 

 

歯根端切除・逆根管充填10か月後レントゲンおよびCT画像。根尖部の黒い透過像が消失し、骨が完全に再生し治癒している(黄⇒)。根尖掻爬だけでは治癒しない根尖病巣が存在している。

 

ポストコアの長さや太さは、再根管治療を行うか否かを決定する際の重要なファクターの一つです。

コアを外す際に歯根破折を起こしたり、削り過ぎにより歯根が薄く脆弱になる或いはパーフォレーション(穿孔)を生じるリスクがあります。

根尖病巣がある歯を再根管治療を行うのか、それとも外科的歯内療法(歯根端切除術および根尖掻爬)を行うのか、正しく診断することが治療を成功させるために重要となるのです。

 

治療費:精密根管治療¥77,000/前歯1歯

根尖掻爬術¥22,000

歯根端切除術・逆根管充填¥88,000

治療期間:1年

治療上のリスク:外科的歯内療法では、術後一時的に疼痛や腫脹、内出血などを生じることがあります。

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日付:  カテゴリ:コラム, 根管治療

根管治療ははじめが肝心~歯医者は何でもっとよく説明してくれないのか?~

一度根管治療を受けた歯が、しばらくして痛くなるケースは少なくありません。

そのほとんどが、正しく根管治療が行われていないことに起因しています。

根管治療を受けたほとんどの方が、歯が痛むあるいは検診で虫歯が見つかり、虫歯治療の延長で根管治療を受けたと思います。

根管治療が虫歯治療よりも遥かに難易度が高い治療であることを、多くの患者さんはご存じありません。

「虫歯が深いので神経を取らないとダメですね」という一言だけで根管治療を受けることが多いのではないでしょうか?

どのような治療であっても、治療上のリスクや偶発症が存在します。

では、具体的にどのようなリスクや偶発症があるのでしょうか?

当院で根管治療を行う際には、以下のようなリスクおよび偶発症の説明を行い、同意書にサインをいただいています。

 

【根管治療における偶発症】

□治療の過程で、一時的に腫れや痛みが生じることがあります。

□根の中は非常に複雑な形をしており、治療器具の破折や根管内への残存が生じることがあります。

□歯根にクラック(ひび割れ)や大きなパーフォレーション(穿孔)がある場合には、基本的に抜歯の適応になります。

□根管治療を行っても治癒しない場合、外科的歯内療法や抜歯の適応になることがあります。

□ご予約が守られない場合、治療効果が出ないことがあります。

□根管治療終了後は、すみやかに修復処置に移行してください。

□根管治療の治療費は成功報酬ではないため、予後の良否に関わらずご返金する

ことはできません。

 

これらのことを事前に個別にご説明し、質問を受け、ご了承をいただいてから治療を行うようにしています。

歯科医師側からしてみると、上記の内容は当然起こり得るであろうことを前提に根管治療を行っています。

しかし、患者側からしてみれば、治療の結果が良好な場合は問題ないものの、予後が悪く、歯茎が腫れたり抜歯しかないと言われてはじめて根管治療がどのような治療であるかを調べるのではないでしょうか?

 

初診時レントゲン。右下の第一大臼歯に強い痛みを訴えて来院。すでに根管治療および補綴治療が行ってある。根管治療は行われているもの不十分であり、根尖部には黒いレントゲン透過像を認める。

初診時CT画像。根尖部には明らかな黒い根尖病巣を認める(黄⇒)。痛みが強い時の治療は麻酔が効きにくい上、再治療は治療時間がかかり、患者さんはしばしば苦痛を感じる。

 

根管充填時レントゲン。疼痛および頬部の腫脹が改善したため、根管充填を行った。根尖部まで緊密に根管充填されているのが分かる。

根管充填時CT画像。再根管治療は時間がかかるため、その間に炎症が進行し、歯槽骨の吸収が進んでしまった(黄⇒)。患者さんはとても辛い時間を過ごしたであろうことが伺える。

 

根管治療1年後。根尖部のレントゲン透過像はかなり縮小して治癒している。

同CT画像。広がりを見せていた根尖病巣は治癒し、歯槽骨が良好に再生している。

 

医療は極めて専門的であり、医師と患者でもつ情報の非対称性のため、相互理解に大きな乖離が生じています。

これを極力なくし、理解の共有を図ることが、医療を行う上で最も大切なことであると私は考えています。

歯科の保険治療の決定的な欠点は、この相互理解、情報共有を術前に十分に行う時間的余裕が無い点が挙げられます。

歯科と医科では、単位時間当たりに診察治療できる患者数に大きな隔たりがあります。

例えば、内科や耳鼻科、眼科、整形外科などを受診すると、医師が実際に診察治療を行う時間はほんの数分、もしかすると1分にも満たないかもしれません。コメディカルスタッフが多くの診療介助や説明を行っていると思います。

しかし、歯科においては、治療のほとんどは歯科医師にしかできない外科処置(削る、抜く、詰める、被せるなど)であり、一般的な治療を行う場合少なくても15~30程度の時間は必要になります。

この限られた時間では、できる歯科治療には限界があります。

そしてこの時間の中で相互理解を深め、情報共有まで行うことが極めて困難であることは想像に難しくないでしょう。

医療で最も重要なことは、患者と医師の相互理解ではないでしょうか。

 

治療費用:精密根管治療¥99,000/1歯

治療期間:1カ月

治療上のリスク:根管治療の成功率は100%ではありません。

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外傷による歯冠歯根破折歯の外科的挺出による保存法

上顎前歯は、外傷で最も受傷頻度が多い部位です。

スポーツや転倒、事故により、顔面および前歯部を強打することで、上顎前歯の歯冠・歯根の破折や脱臼を生じるケースは非常に多いです。

歯の脱臼では、可能な限り早期に再植・固定をすることで歯の保存を図ります。しかしながら、完全脱臼(完全に抜け落ちてしまったもの)では将来歯根吸収を起こす可能性が極めて高いです。

亜脱臼(歯の位置異常、ずれ)では、歯根膜の血流が完全に途絶えないため、将来的な歯根吸収の可能性はあるものの、比較的良好に経過するものも少なくありません。

脱臼に対して、歯冠や歯根の破折の頻度はとても多いです。

スポーツ、転倒、事故以外にも、誤ってお箸やスプーンを噛む、お子さんの頭がぶつかった等、日常生活で受傷することもあります。

 

歯冠破折では、その受傷範囲によって治療法が異なります。

小さく欠けた程度であればコンポジットレジンを充填するだけで問題ないことが多いでしょう。審美的に問題を生じるようであれば補綴治療(ほてつ:被せること)を行うこともあります。

歯髄(神経)に達するものでは根管治療および補綴治療を行うことが一般的です。

 

一方、歯根破折の場合には、抜歯が必要になることが少なくありません。

歯根が歯槽骨の中で破折している場合、通常補綴治療を行うことは出来ません。

歯肉や歯槽骨などの歯周組織を健全に保つためには、3㎜程度健康な歯質が歯槽骨頂部よりも出ていなければならないためです。(専門的にはバイオロジック・ウィズ:生物学的幅径という。生物学的幅径は、約1㎜の上皮性付着、結合組織性付着、歯肉溝の合計3㎜で構成される)

生物学的幅径が確保されていない場合、歯や歯肉の痛みや違和感、咬合痛、歯肉の腫脹や出血などの炎症が生じます。

このため、歯根破折では歯の保存が困難になります。

しかしながら、そのような破折歯でも生物学的幅径を確保する方法が3つあります。

矯正的挺出、外科的挺出、歯冠長延長術です。

矯正的挺出は、矯正力で歯根を骨から引っ張り出す方法であるのに対し、外科的挺出は歯を脱臼させて骨から引き出す方法です。

外科的挺出に比べ矯正的挺出の方がマイルドで歯に優しく、歯根吸収のリスクがほとんどないため、可能であれば矯正的提出を図るのが一般的です。

ただし、条件によっては矯正的挺出を図ることが困難な場合もあります。

この場合は、次善の策として外科的提出を図ります。

歯冠延長術は、歯槽骨を削ることで生物学的幅径を確保する方法であり、術後に歯肉の退縮が必ず起こるため、主に臼歯部で行われます。審美性の要求される前歯部での適用には不向きであるでしょう。

 

初診時口腔内。転倒により左右の上顎中切歯2本を強打して歯冠歯根破折を生じ、近医にて応急処置を受けた。歯肉からの悪臭、疼痛および審美障害を訴え来院。前歯部の噛み合わせが深く(過蓋咬合)、下顎前歯はほとんど見えない。このようなケースでは、矯正装置を装着することが困難なため、矯正的挺出を行うことは難しい。

 

初診時レントゲンおよびCT画像。右側中切歯(向かって右)は歯髄に近接した白い充填物を認める。根管治療後、補綴治療を行うこととした。左側中切歯(向かって右)は歯槽骨にまで及ぶ歯根破折を認め(黄⇒)、通常であれば矯正的挺出あるいは抜歯のケース。過蓋咬合で矯正的挺出が行えない為、根管治療を行った上で外科的挺出を図り歯牙を保存することとした。

 

左側中切歯の根管治療時。根尖部まで緊密にしっかりと根管充填されている。

 

外科的挺出直後。歯根を約3㎜ほど外科的に歯槽骨から引き出した(黄⇒)。歯根が歯槽骨から脱臼されているため、歯根周囲は黒い隙間が確認できる(赤⇒)。歯の動揺が強いため、隣在歯と接着剤で固定を図る。

 

外科的挺出2か月後。歯槽骨の再生により、歯根周囲の黒いレントゲン透過像が消失している。歯の動揺も落ち着いた。

 

右側(向かって左)中切歯の根管治療後。外科的挺出を図った左側(向かって右)中切歯の歯根周囲に骨の再生を認める。歯根の吸収は認められない。

 

治療後口腔内。オールセラミッククラウンによる審美修復を行った。下顎前歯部はクラウディングが存在していたため、噛み合わせの改善を目的として部分矯正を行た。抜歯をせずに治療できたことは、患者さんにとって非常に有益であろう。

 

外傷歯を保存できるか否かは、歯や歯周組織、咬合等の条件に左右されます。

歯根が短い場合には、挺出して歯牙を保存することは出来ません。

外傷で歯を受傷したした場合には、なるべく早く歯科医院を受診し、治療方針を相談することをお勧めします。

治療費用:精密根管治療¥77,000/1歯

ファイバーコア¥22,000/1歯

オールセラミッククラウン¥132,000/1歯

部分矯正¥550,000

治療期間:11か月

治療上のリスク:外科的挺出は将来歯根吸収を起こすリスクがあります。

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日付:  カテゴリ:コラム, 審美歯科, 根管治療, 矯正歯科

上顎大臼歯の根管治療を保険診療で受けると、予後不良となる確率が高い!~精密根管治療による根尖病巣と歯性上顎洞炎の治癒例~

根管治療は、歯科治療の中でも最も難しい治療のひとつです。

特に上顎大臼歯の根管治療は非常に難易度が高い治療です。

通常、歯根が2~3本存在し、根管(神経の入った管)が3~4本存在しています。

歯根や根管の湾曲が強いものも少なくなく、ファイル(細い治療器具)の破折やパーフォレーション(穿孔;歯根に穴を開けてしまう)のリスクが高い歯が多いのです。

それに加え、上顎臼歯部は視認性と器具の到達性が悪く、患者さんの開口量によっては器具が下顎の歯に当たり治療が困難な場合も少なくありません。

保険診療の根管治療は、治療の難易度に対して保険点数が極めて低く、治療に時間と労力を割くことができませんし、コストに見合った材料や器具しか使うことが出来ません。

その結果、根管治療はなかなか進まず半年一年と治療をダラダラ続け、根管治療した歯の予後が悪く治療のやり直しを繰り返すこととなります。

 

初診時レントゲン。右側上顎第一大臼歯の疼痛と歯茎の腫れを主訴に来院。コンポジットレジンによって、歯髄(しずい)に近接した虫歯治療がされている。

初診時CT画像。根尖部(こんせんぶ;歯根の先端)には根尖病巣による黒く丸いレントゲン透過像を認める(黄⇒)。根尖病巣が上顎洞に近接しているため、上顎洞の内部に白いレントゲン不透過性の炎症所見を認める(赤⇒)。歯髄壊死による根尖病巣(慢性根尖性歯周炎)および歯性上顎洞炎と診断し、根管治療を行うこととした。このようなケースは、根管治療がうまくいかなければ上顎洞炎が増悪し、抜歯に至る。

 

根管充填後レントゲン。歯の痛みおよび歯茎の腫れが改善したため、根管充填を行った。4つの根管に根管充填されているのが分かる。

根管充填後CT画像。根尖部までしっかりと白い薬が充填されているのが分かる。根尖病巣による根尖部の黒いレントゲン透過像は縮小してきており(黄⇒)、上顎洞の炎症も治癒してきているのが分かる(赤⇒)。

 

治療1年後。何も症状はなく順調に経過している。

治療1年後CT画像。根尖部にあった黒いレントゲン透過像および上顎洞内の白いレントゲン不透過像は消失し、根尖病巣および歯性上顎洞炎は完全に治癒している。保険治療では決してこのようにはいかない。

 

根管治療は、一番初めの治療(抜髄;ばつずい、神経を取ること)が最も成功率が高く、再治療(治療のやり直し)は難易度が高く成功率が顕著に低下します。

したがって、根管治療を受ける際は、最初から保険ではなく自費での治療を受けるべきで、その方が治療後の歯の予後は良く、長くご自身の歯で過ごすことが出来るでしょう。

自費での治療は確かにイニシャルコストがかかりますが、歯がダメになって将来抜歯になり、ブリッジやインプラントになることを考えると、トータルコストは抑えることが出来ます。

普段は気付きもしませんが、何よりもご自身の歯で不自由なく食べられることは、とても幸せなことではないでしょうか?

治療費用:精密根管治療(大臼歯)¥99,000

ファイバーコア¥22,000

オールセラミッククラウン¥132,000

治療期間:3か月

治療上のリスク:根管治療の成功率は100%ではありません。神経を失った歯は将来歯根破折を生じるリスクがあります。

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日付:  カテゴリ:コラム, 根管治療

歯髄壊死による重度歯性上顎洞炎の治癒例~精密に根管治療を行う重要性~

上顎の臼歯部の上方には、上顎洞という副鼻腔が存在しています。

日本人は上顎洞が広く、特に上顎大臼歯の根尖(歯根の先端)は上顎洞に近接あるいは上顎洞に突出しているケースが多く、根尖病巣(歯根の先端部の炎症:慢性根尖性歯周炎)を生じると歯性上顎洞炎を併発するリスクが非常に高いです。

根尖病巣を生じる原因は、主に虫歯や虫歯治療から生じた歯髄炎、歯髄壊死、不適切な根管治療などです。

上顎大臼歯は非常に複雑な歯根形態をしており、また視野や器具の操作性が悪いため、根管治療の難易度が最も高い部位です。

根管治療の成否は、上顎洞炎の罹患や歯の保存を決定的に左右します。

 

我が国の保険治療での根管治療の成功率は30~50%ほどとされていますので、保険治療で難しい上顎大臼歯部の根管治療を受けた場合、歯性上顎洞炎を生じるリスクは高いと考えられます。

根管治療は、初回治療の成功率が高いものの、再治療では成功率は大幅に低下します。

このことから、イニシャルコストはかかりますが、大臼歯特に上顎の大臼歯の根管治療は最初から自費治療でお受けになるのが賢明だと思います。

 

初診時レントゲン。右側第一大臼歯の痛みと歯茎の腫れを主訴に来院。右側顔面の疼痛および後鼻漏、鼻閉を訴えていた。当該歯は虫歯治療がしてあり、大きなコンポジットレジンが歯髄付近まで充填されていた。根尖部には黒いレントゲン透過像を認める。

 

初診時CT画像。当該歯の根尖部には根尖病巣と思われる黒いレントゲン透過像(赤⇒)を認める。上顎洞は上方まで白く不透過性が亢進しているのが分かる(黄⇒)。虫歯治療から生じた慢性根尖性歯周炎から継発した歯性上顎洞炎と診断し、根管治療をを行うこととした。

 

根管治療後レントゲン。根尖部まで緊密に根管充填されているのが分かる。臨床症状はすべて改善した。

 

根管充填後CT画像。根管治療を開始して一月後には上顎洞内部は正常な透過性を認め(黄⇒)、顕著な上顎洞炎の改善を認める。根尖病巣は縮小している(赤⇒)。

 

根管治療後1年。根尖部のレントゲン透過像は完全に消失し、根尖病巣は治癒している。

 

根管治療後1年のCT画像。初診時に認めた上顎洞内部の不透過性が改善し、正常な黒い含気腔を呈する(黄⇒)。根尖病巣も完全に治癒し、黒い透過像は消失し、骨の良好な再生を認める(赤⇒)。

 

歯性上顎洞炎は、歯を正しく治療すれば治癒することは多いです。

しかしながら、鼻腔と副鼻腔を繋げる自然孔が閉塞していたり、鼻中隔の湾曲などにより鼻腔の換気が悪いようなケースでは、歯の治療だけでは改善しないこともあります。

そのようなケースでは、耳鼻科との連携治療が必要になります。

いずれにしても、上顎洞炎の原因が歯にあるのか、鼻にあるのかを正しく診断することが重要となります。

治療費用:精密根管治療(大臼歯)¥99,000

ファイバーコア¥22,000

オールセラミッククラウン¥132,000

治療期間:2か月

治療上のリスク:根管治療の成功率は100%ではありません。病態によっては耳鼻科との連携が必要になります。

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根管治療の成功率と被せ物の精密さ~精密な被せ物を被せないと、根管治療は成功しない!~

根管治療を精密に行うことは、歯を良い状態で長く保つために非常に重要です。

歯の内部は直接見えないだけでなく、神経を失った歯は異常があっても痛みを感じません。

そのため、歯の内部で起こっている問題が、歯や歯茎の痛みや腫れ、被せ物の脱離などの症状として露呈した場合には、治療としては手遅れとなっている場合が少なくありません。

最近では、根管治療の難しさや重要性が少しずつ患者さんにも認識されてきていると感じています。

ここでさらに重要なことは、根管治療の精密さと治療の成功率にどのような相関があるです。

 

これは、根管治療の精度とその後に被せる被せ物の精度が、根管治療の成否にどの程度影響しているかを示した表です。

根管治療が精密であれば、当然ながら根管治療の成功率は高くなります。

根管治療の精度が低ければ、もちろん根管治療の成功率は低くなります。

しかし、根管治療の精度が高くても、被せ物の精度が低いと(保険)、根管治療の成功率はかなり低くなり、半分以下となってしまいます。

ここで重要となる事実は2つ。

根管治療の精密さと根管治療の成功率は相関する。

被せ物の精密さと根管治療の成功率は相関する。

つまり、根管治療の成功を最終的に決定付けるものは、実は被せ物(補綴)であると言えます。

いくら精密な根管治療を行っても、その後に被せる被せ物の精度が悪いと、バクテリアが非常に小さな隙間からリークして、根管治療の成功率そのものが悪くなるということです。

このことからも、自費の根管治療と自費の被せ物はセットで受けるべきであることが分かります。

治療は、どこか一部分でも良くない過程があると、全体に影響を及ぼします。

全ての治療がトータルで高い精度を満たした時に、歯の寿命が最も長くなるのです。

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日付:  カテゴリ:コラム, 根管治療

根管治療後の痛みや違和感の原因について

根管治療中や治療直後には、痛みや違和感が生じることが少なくありません。

主に次のようなことが原因として考えられます。

➀治療中に根尖部(歯根の先端)の組織を器具で刺激している場合

②根管充填(最終的な薬を詰めること)に伴うもの

③今までの治療ですでに根尖部が破壊されており、再治療で根尖部を弄らざるを得ない場合

④歯髄(神経)が完全に取り除けていない場合(残髄)

⑤根管内に感染源が残っている場合

⑥薬剤による刺激(根管貼薬および洗浄消毒液)

⑦過度の器具の根尖外への突き出し(オーバーインスツルメンテーション)や過剰な根管充填(オーバー根充)

⑧根管治療では治らないケース(歯根破折やパーフォレーション、歯根嚢胞などの予後不良なものなど)

 

上記の➀、②はきちんと根管治療が行われていても臨床的によく起こるもので、時間とともに(ほとんどが2,3日~1週間程度)症状は治まっていくので心配はありません。

③のケースはそもそも治療自体が非常に難しく、治療の成功率もやや低くなります。

④~⑦は手技によるもので、術者の技量によります。

⑧は外科的歯内療法もしくは抜歯のケースで、根管治療では治癒が見込めないケースです。

 

初診で来院される患者さんは、根管治療後(治療済みも含め)の痛みや違和感を訴えている方がほとんどです。

まずは、痛みや違和感の原因を正しく診断することが重要となります。

ここを見誤ると、治せるものが治らず、治らないものを永遠と治療する結果になってしまいます。

 

初診時レントゲン。他院にて右側下顎第二大臼歯の抜髄(神経を取る治療)・根管充填処置を受けたものの、咬んだり指で叩くと痛んだり、フロスを通すと違和感があるため再治療を受けた。しかし症状の改善がなく、詰めた薬も取れないため抜歯を宣告され当院に来院。レントゲンおよびCT画像では、抜歯と診断する理由が見当たらない。残髄もしくは感染源の取り残しが原因と考え、再根管治療を行うこととした。

 

根管充填後レントゲン。フロスを通したときの違和感は多少残っているものの、痛みは完全に消失したため根管充填を行った。このような一見まったく問題のない歯を抜歯と診断することに驚きを隠せない。

 

明確な理由が無いにもかかわらず、痛みや違和感あるというだけで抜歯と宣告されることがあります。

このような場合には、まずはセカンドオピニオンをお受けになり、抜歯が必要となる明確理由を尋ねてみてください。

ご自身が納得していない治療を受ける理由はどこにもないのですから。

 

治療費:精密根管治療¥99,000/大臼歯

治療期間:3週間

治療におけるリスク:根管治療の成功率は100%ではありません

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